イラスト/寺岡賢司

偵察任務に向け、北極海に発進する水中用モビルアーマー

水島

予告どおりの地味路線ってことで、今回はゲリラが使っていた水中用モビルアーマー、シュウェザァイだね。

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寺岡

まずはあまり目立っていないメカに光を当てたかったからね。今回は、水中用モビルアーマーの通常の任務というのがテーマ。実はこういう小さな軍港の片隅から、指令を受けて発進していく。おそらくどこかの軍港や戦艦に貼りつく目的で、偵察行動に発進するイメージ。

水島

ここから直接潜って出撃するってことだね。

寺岡

3機で組むというのが人革連のパターンだから、この機体の僚機は、すでに潜航しているはずなんだ。

水島

この場所は北極かな? 水中用モビルアーマーが行動するのは、だいたいどのエリアになるんだろう。

寺岡

ヨーロッパではイギリス、カナダからアメリカを警戒するんだろうね。他にも人革連の軌道エレベーターは海上にあるから、その付近に配備されている潜水艦軍もいるはず。イラストの部隊は北極海潜水艦軍っていうイメージで、軌道エレベーター潜水艦軍はこれより規模が3倍ぐらい大きいと思うな。この機体は攻撃型だけど、当然戦略型も存在したと思う。たとえば弾道ミサイルを積んだ、もっと巨大なモビルアーマーがいたんだろうね。

水島

ファーストシーズンの第8話(「無差別報復」)で登場したときは、船の中から出現したよね。

寺岡

あれはゲリラが使っていたということで非正規な活動だった。船に積むというのは水中用モビルアーマー本来の姿じゃないんだよね。

水島

ちょっとユーモラスだったなぁ。

寺岡

僕のデザインのせいもあるんだよ(笑)。顎が開いたり、手が長かったりさ。

水島

「これどうやって戦うの?」って聞いたら、「手で引き込んで顎でガチンだよ」って言ったでしょ? でも顎でかみつく前に、手をソードで斬られそうだなって思った(笑)。

寺岡

だから切られやすいように細くしてあるんだって(笑)。だいたいさ、水中で魚雷を使って戦わずに、組みつくところがかわいいからね。

水島

そうそう、だから組みついて、魚雷を撃つっていうコンテに変えたんだっけ。

寺岡

本来はモビルスーツ戦用じゃないからね。このモビルアーマーは対艦用。海上艦艇への警戒や護衛といった任務も含まれる。一番辛い任務は、敵の軍港の前で1週間ずっと待っていること(笑)。こんな氷の張った海の中でね。今は衛星があるから、そういう任務も減ってきているらしいけど、相変わらずアメリカはやっているみたいだね。

水島

潜水艦乗りたくないなぁ……。

寺岡

結構寒いみたいだしね。断熱はしてあるけど、沁みるように寒いって(笑)。潜水艦自体が、熱や音を発しちゃいけないものだからね。

水島

1週間、あの狭いコクピットに立ちっぱなしか。明らかにエコノミー症候群になるなぁ。

寺岡

きっとバイザーは脱げないだろうね。現実がわかっちゃうから。

水島

人を部品のように扱うところは、さすが人革連。

寺岡

だから待機中はずっとネットに接続して遊んでいるだろうね。トイレはチューブで済ましちゃうだろうし。寝るときは薬で強制的に眠らせる。だからみんな、モビルスーツに乗るのがいいなって思うんだよ。

水島

搭乗時間が短いもんね。最後はみんなモビルスーツに乗りたいっていう気持ちもわかる。そりゃセルゲイもGN-Xに乗って「これはいいものだ」っていうよね(笑)。

寺岡

広いし、ちゃんと椅子があるしね(笑)。

水島

あれは副監督の角田君が、セルゲイになにかを言わせたくて考えたんだけど、結局「これはいいものだ」しか思いつかなかったんだ(笑)。石塚運昇さんの声で「いいものだ」って言えば、いいものに聞こえるよってことで採用した(笑)。

寺岡

まぁ、モビルアーマー乗りもモビルスーツ乗りも任務はキツイけど、給料は相当いいと思うよ。

水島

モビルアーマー乗りも給料はいいの?

寺岡

一般兵よりは圧倒的にいい。モビルスーツは危険手当てを10倍ぐらいもらえるだろうけど、水中モビルアーマー乗りも5倍ぐらいもらえる。奥さんもうれしいよね。夫が帰ってこないで給料はいい。任務の内容は言えないけど、水中モビルアーマー乗りだって自慢はできるだろうね。でもみんな、心の中では「絶対乗りたくない!」って思っているだろうけど(笑)。

過酷な人革連パイロットの実情

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水島

人革連側のコクピット描写は、「パイロットがヘルメットをかぶると無個性になる」「だれでもパーツになってしまう」というコンセプトがあって、顔を見せないデザインに挑戦してみたんだよね。でも実際にやってみたら、本当にだれかわからなくなってしまった(笑)。バイザーの中から目だけが見える……っていう描き方をやってみたんだけど、演出的に気をつけないと、ただ透けているだけに見えてしまったんだ。

寺岡

でも挑戦したことの意味はあったよね。演出も作画も苦労して、暗くて狭いコクピットや、顔が見えないバイザーに挑戦したんだからね。

水島

お褒めいただいてありがとうございます(笑)。監督としては、若干心残りな部分があるんだけどね。こだわってやってはみたんだけど、あまり波及はしなかった。結局それは個人のこだわりで、作品のこだわりとはちょっと違うのかなって思った。

寺岡

本当にできるんだったら、『ボトムズ』みたいにやりたいよね。

水島

人革連は『ボトムズ』に近いでしょ。キリコのゴーグルは、まさにこの系統だと思う。たださすがにピーリスはできなかったな。でも将来的にGN-Xが出ることが分かっていたから、タオツーのピーリスだけ、ヘルメットを変えても不自然ではないと思えたんだよね。

寺岡

旧式機とガンダムの間にすごく幅があって、タオツー、GN-X、アヘッドと入れることができたからね。最初のコクピットを従来のガンダム風に寄せていたら、あまりバリエーションが出せなかったのかもしれない。

水島

それに関しては寺さんも福地君も、全然ガンダムに寄せるつもりはなかったでしょ(笑)。

寺岡

コクピットでいえば、ガンダムって30年の歴史があるでしょ。実際には狭くても、ある程度は広く作画されてきたという歴史がある。そういう常識を変えてしまうわけだから、意識の共有が一番難しかっただろうね。

水島

ティエレンあたりは、カメラの入り方を固定しても面白かったかもしれない。ただ演出の範疇から逸れてしまう部分があったからね。これは全部、自分でコンテを描かないと徹底できないなって思った。でも心意気は何とか活かそうと思ってね。

寺岡

まぁ僕らは好き勝手やったんだけどね(笑)。

水島

まぁ寺さんと福地君に関しては、今までの作品が手をつけなかった細かい部分まで設定して、それぞれの勢力の違いをきっちり出そうとお願いしていたからね。でも、ちょっと使いきれなかったのが残念だった。

寺岡

ちゃんと土台にはなったよね。あれだけ作り込んでいるからこそ、こういう絵が描けるという面白さもあるんだよ。

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寺岡賢司

寺岡賢司(てらおか・けんじ)

メカニックデザイナー。アニメーターからメカデザイナーへ転身後、数々の作品でメカデザインを手がける。『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』シリーズのタチコマは、あまりにも有名。近年の代表作には、『コードギアス 反逆のルルーシュ』シリーズなど。また、SFやミリタリー、メカニックなど多ジャンルで造詣が深く、『機動戦士ガンダム00』ではメカデザインのほかに、SF設定として作品の構築に深く携わった。デザイン面では、ティエレン、アヘッド、スマルトロン、宇宙船ソレスタルビーイングなどのデザインを担当。

MAJ-03 シュウェザァイ

人革連が開発した水中用モビルアーマー。武装は魚雷発射管をはじめ、大型アームや頭部には顎のような格闘用武器が備えられている。西暦2307年時点ではすでに旧式となっており、テロ組織が活動に用いられるケースも見られた。スコットランド沖では、テロ組織ラ・イデンラがソレスタルビーイングの追跡を逃れるために使用したが、エクシアとの交戦で敗れ去っている。

MAJ-03 シュウェザァイ

■MAJ-03 シュウェザァイ

登場シーン

登場シーン

ファーストシーズン 第8話

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