イラスト/寺岡賢司

アニメーターというバックボーンが世界観を鮮やかに描き出す

水島

今回も地味路線だけど、ティエレンとかを描いてみようと思わないの?

寺岡

3巡目がティエレン、4巡目があればアンフだね。まだ描いてないのがたくさんあるからなぁ。

水島

アヘッドもイラストって設定画以外はないんだよね。どこかの媒体で、アヘッドの版権イラストを発注してくれないかな。

寺岡

まずはモビルアーマーを描いてあげないとね。宇宙用とか空中用も描きたいんだけど、あと2年ぐらい続けられれば描けるかな(笑)。まぁ派手路線は、みんなが描いてくれるからさ。海老川君も柳瀬君も地味路線を狙いつつも、やっぱり結構かっこいいでしょ?

水島

寺さんぐらいだよ、本当の意味でスナップみたいな絵を描くのはさ。

photo
寺岡

これは反対側のキャットウォークに人革連のカメラマンがいて、撮影しているというイメージなんだよね。

水島

もともとアニメーターだから、レイアウトはうまいんだよね。

寺岡

でもレイアウトは、もともと絵コンテがあるから。なにもないところから作るのは、さすがに大変だよ。

水島

絵コンテ描いてって言ったら、すごくイヤがっていたもんね。

寺岡

芝居とか段取りとか、すごく大変でしょ? 言葉にすればほんの5分で終わるけど、描いたら何時間もかかる。

水島

それが面白いのになぁ…。

寺岡

まぁ人それぞれ。自分に演出は絶対無理だよ。こういうイラストが一番気楽なんだ。設定も他の人が描くことを考えて、わかりやすさとか見やすさを気にしているけど、イラストは見えていないところは描かなくてもいいし、考えなくてもいい。

水島

でも、描きたいアイデアを持っているのが素晴らしい。寺さんは自分の中で、どういう世界で運用されているのかを考えて設定しているからね。だからそういう意味では、この企画に一番合っているんだよね。

寺岡

でも地味過ぎて売れない(笑)。

水島

でもそれが寺さんらしいと思うんですよ。自分の趣味大爆発がやりたいんだろうなって(笑)。

寺岡

派手でかっこいい絵は、みんなに任せます。

なぜアニメーターからデザイナーへ転身したのか?

水島

寺さんが設定を始めたころから付き合いがあるから、その変遷がおもしろいんだよね。たとえば僕の初監督作品である『ジェネレイターガウル』で美術デザインをやってもらったんだけど、寺さんの設定は奥のパーツが歪んでいるような独特の感覚があった。演出からは距離感が分からないって質問が来たけど、寺さんは「そんなのは雰囲気でいい」って返したんだよね。正確な値にするとむしろ難しくなって、ルーズさがなくなってしまう。

寺岡

今のアニメ業界は、まさにその厳しい部分に立っているよね。正確な3Dで設定が作られることによって、アニメーターに緻密さが求められるようになった。それはアニメーションの楽しさを減らしている部分もあるんだ。昔のアニメは、5歩100mなんて言葉もあったもんね(笑)。100mを5歩で走るなんてあり得ないんだけど、そういうルーズさがアニメのおもしろさだった。いいとは言わないけど、悪くはないよね。

水島

そのルーズさを使い分けできたらおもしろいんだけどね。3Dをルーズにやってくれといっても、基本的にできないから。
まぁ3Dにしても、プログラムで簡単にできるわけじゃないしね。最終的には人の手で全部微調整しないといけないから。結局アニメーションは、どこまでいってもマンパワーが必要ってことになるのかな。

寺岡

アニメーションは感覚が物を言う世界。だから3Dもアニメーションになったときには、感覚が必要になるんだよね。

水島

そうだね。3Dアニメーターも作画で培ってきたようなセンスをもっていないと、作画のアニメーションにかなわない。ただ3Dも「大量のものを描く」とか、得意な分野があって、そこにおいては圧倒的なんだけど。まぁアニメーションが進化していく過程で、いろいろハイブリッドになっているよね。寺さんと知り合ったころは、まだ普通にフィルムで撮っていたからなぁ。
そういえば前回の柳瀬君からの質問なんだけど、寺さんはどんな経緯でデザイナーを目指したの? 『スレイヤーズ』で知り合ったときは、すでにデザイナーだったよね。

寺岡

その前に『銀河戦国群雄伝ライ』でメカデザインをやっていたからね。そのあとに『スレイヤーズ』でモンスターデザイン、そのあとはAICでもメカデザインをやらせてもらって……。
アニメーター時代から「デザインをやりたいです」って、いろんな人に絵を見せていて、たまたま『ライ』でチャンスが来たって感じかなぁ。そこから、メカデザイン、モンスターデザイン、あとは美術設定でもメカっぽいものは描かせてもらって。

水島

あの時代は過渡期だったよね。寺さんは、アニメーターが美術デザインを描き始めた草分け的な存在だったんじゃないかな?

寺岡

当時はそういう人はいっぱいいたよね。でもみんなアニメーターに戻ってしまった。僕なんかはデザインのほうが好きだから残っちゃったけど。

水島

特に当時のAICは、チャンスが多かったよね。とんがった人も多かったし、社内の人間で分業することも当たり前で、主張がしやすかったんじゃないかな。

寺岡

もともとAICは、そういう伝統があったからね。ただ、やりたいって本人が訴えないとダメだよね。そして、やるっていう段階で準備ができていないとダメ。これから準備しますじゃ、もう仕事がこなくなる。すぐできるような体制を取っておかないとね。『ライ』のときは、いきなり一年ものの作品だったけど、自分でもよくできたなと思うよ(笑)。

水島

まぁ言ってしまえば、特殊ななり方ではないよね。

寺岡

ないね(笑)。なる人はたくさんいた。でも続ける人はあまりいなかった。

水島

メカデザイナーを目指す前からメカ好きだったでしょ? やっぱりミリタリーが好きだった?

寺岡

ミリタリーっていうよりは、子供のころからブルドーザーやトラックとかが好きだったかな。指先が器用じゃなかったから本物のメカは諦めて、絵描きになったんだ。
ミリタリーはすごく特殊で、戦争に特化しているから記号的にわかりやすい。でも通常のインダストリアルデザインは、制約が多くて面白いデザインができるんだよね。携帯電話や車は、使いやすさとか価格とかいろいろ考えることがあるでしょ? そういう意味では、一般の工業製品好きから入ったのが自分の強みかなって思う。

水島

『00』でも陣営ごとに、車や携帯電話を描いてもらったよね。こうしてデザインを振り返ってみると、寺さんが人革連でよかったなって思う。寺さんには、最初ユニオンのデザインを担当してもらおうと思っていたんだよね。ユニオンはSFっぽいイメージで考えていて、寺さんがAIC時代に描いていた流線型のSFっぽいメカが合うんじゃないかって思っていたんだよ。
以前に『デュアル!』などで描いていたメカの途中経過のラフ画を見せてもらっていて、それがとてもおもしろいデザインだったんだよね。

寺岡

でもね、自分のデザインは曲線が増えれば増えるほどSF方面に行ってしまう。だからガンダムよりSFっぽい、異質なものになるんじゃないかと思ってね。それなら戦車のほうがいいなって。

水島

逆に福地君には、実際にある物をデザインしてもらう仕事で知り合っていたから、現代の延長線上にある地に足がついたメカをお願いしようと思っていた。でも寺さんと福地君に「どっちの勢力をやりたい?」って聞いたら、まったく逆だったんだよね。それなら本人同士が、今やりたいものを優先したほうがいいかなと思って、現在の形になった。結果として、それぞれのやりたいことが、ガッチリはまったっていうことかな。

水島

次回は鷲尾君か。「次は描いていいよ」って言っちゃったからなぁ……。まぁ企画のコンセプトに合った、かっこいい絵を描いてもらえるとうれしいかな。きわどい絵にはしないでね。

寺岡

それは無理でしょ。

水島

え、無理なの?

寺岡

愛があるから無理だよ。エッチな絵に期待します!

水島

エッチって言うなー!(笑)。

文/河合宏之・写真/ドクトルF
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