イラスト/福地 仁

細部にこだわったアプローチで見せる、戦場写真風イラスト

水島

第3回目は、この『G-ROOMS』という企画の実現を強く望んでいた福地仁さんですね。フィルムの中ではメカデザインだけではなくて、『ガンダム00』という作品世界の中で重要なミリタリー要素の構築も担当してもらっています。そんな福地さんが、今回、自身でデザインしたメカを中心に、フィルム用に作り上げた雰囲気をイラストに落とし込んでいるわけですね。イラストの見所としては、メカ自体もフィルム本編の仕様とは異なっているところですかね?

福地

描きたいモノを描くという企画なのでそうさせてもらいました(笑)。今回は、砂漠で活動する反政府勢力であるカタロンのメンバーをメインに描かせてもらいました。メインになっているのは、ホビージャパンさんで連載していた『00V』という機体バリエーションを描く企画に登場した陸戦用の〈シェルフラッグ〉。その軽装タイプになっています。
カタロンという組織に所属するメンバーは、ファーストシーズンでは各国正規軍に所属していたけど、セカンドシーズンでは、独立治安維持部隊のアロウズに反発して装備を持ったまま離脱してきた人も多いだろうという設定があるんです。このフラッグに乗っている人も、そうした流れの人ですね。

水島

肩にはマーキングが入っていますね?

福地

これは、乳母車から拳銃がでているマークなんです。つまり、乗っているのはオーストラリアの人で、カンガルーのポケットから想像して描いて、意味合いとしては「油断させておいて撃つぞ」という感じで。

水島

なるほど。もちろん、塗装に関しても意味があるんですよね。

福地

全身はいわゆるカタロンカラーというブルーになっているんですが、左手だけ元素材のカーボンがそのままの色になっています。これにも理由がありまして。この世界では実は塗装にもナノマシンを使っていて、使用状況にあわせてプログラムを変更することである程度色を変えられるんですが、左腕だけプログラムが切れているんですね。そういうところはテレビシリーズでは描けないですからね。

水島

そうだったのか……知らなかった(笑)。確かに、塗装に関してはそんな話をしていましたよね。

福地

フィルムではガンダム側が周囲の風景を機体に映す光学迷彩を使っていますが、あれはリアルタイムで映像が映し出されているんですが、そこまでの技術ではなくて、地域に合わせた迷彩パターンを出すくらいしかできない。ただ、イラストで砂漠用の迷彩で描いてしまうとカタロンの機体だと判らなくなるので、イラストではカタロンカラーになっていますが(笑)。

水島

迷彩はアニメでは難しいですからね。フィルムでは陣営ごとにある程度色分けしないと視聴者に伝わりにくい、そこはフィクションのドラマとしては仕方なくね。他に気になるのは、背景に描かれている他の機体……。

福地

すぐ後ろには、アグリッサが着地していて、コンテナ部分からジープが出ています。もともとアグリッサという機体はホバー輸送艇なんです。フィルムには脚がついたタイプが登場していたので、その印象が強いですが、イラストでの使い方が本来の姿なんです。フィルムでは見せられなかった、いろんな使い方があるのを見せておこうと。それから、さらに奥にいるのは対空用のティエレン。タカラマカン砂漠でのシチュエーションで副監督の角田(一樹)君は出したがっていたけど、出せなかったから描いておきました(笑)。

水島

尺的に難しかったけど、一部のファンからは「カタロンの活躍をもっと見たかった」という意見もあったから、こういうシチュエーションはいいですよね。

福地

僕もカタロンの活躍をもっと見たかったので、そういうつもりで描いています(笑)。尺があれば、カタロンが出る回は全部装備を変えたりしたかったんです。模型的な面白さとして、ユニオン、AEU、人革連の3陣営の機体が混成して入っているので、例えばユニオンの機体が人革連の武器を持っている……というようなシチュエーションもあり得たのですけどね。

水島

カタロンにはそういう面白さがあって、もっといろいろできたと思うけど、物語上ではあまりスポットをあてられなかったのが心残りですね。

福地

そうした劇中でやれなかった妄想の翼を広げたのが今回のイラストで、3つの陣営の機体を描いた理由もそこにあります。これは妄想上のカタロン視点のOVA……みたいな視点で描いているので(笑)。

水島

これが模型好きのファンに伝わって、どんどんやってもらえるといいんですよね。

陣営ごとのイメージ違いから生まれた、『00』世界の量産機

水島

今回のメインメカはフラッグということで、この機体の誕生の経緯も振り返りたいんだけど、僕からメカデザインを依頼する段階で「飛行形態へ変形するモビルスーツ」という発想はオーダーに含まれていなかったんですよね?

福地

最初のオーダーの時にはまだ入ってなかったですね。ただ、「アメリカ軍寄りのモビルスーツで」という話は最初からあったので、飛行するイメージはその頃からあったのは確かですよね。

水島

人革連とユニオンを分けるときに、「戦車と飛行機というイメージで分けよう」と言ったのは覚えているんだけど……。

福地

ただ、その時の飛行機という意味は、あくまでイメージ分けというか、役割分担の話ですよね。企画書の段階では、フラッグは空母の甲板に立っている絵を描いていて。当初は、輸送機から空挺降下的に翼を持つモビルスーツが出撃して、そのまま飛行するという方向で考えていたんです。はっきりと変形の話が出たのは、バンダイさんからのちょっとした希望がきっかけでした。

水島

「バルキリーとは違った変型機構を」って随分と言っていたよね。打ち合わせの中で、「変形」に関しては違和感なく受け止めていたから、どこで決定したのかは現実的には覚えてなかった。とは言っても、劇中ではほとんど飛行形態での空中戦は描けていないんですけど。

photo
福地

フラッグ=飛ぶイメージという形でアピールできたのは、成功でしたよね。確かに空中戦の描写は少ないんだけど、「飛ぶ」という事にちゃんと食いついてくれたお客さんがいましたから。そうしたイメージがきちんと定着したからこそ、今回は逆に陸戦するフラッグを押してみたんです。

水島

「ユニオンの機体自体が人革連に比べて装甲が薄いけど、その分単機としての性能が高い」というようなイメージの話をしていて、そこから「細身のメカ」というアイデアにつながって、オーダーしたんですよね。だから、僕自身はフラッグという機体の陸戦のイメージというものが、演出プランとして浅いんですけど、「いやいや、フラッグの陸戦も絶対にありますよ」という福地さんの考えが、こういう形のイラストになったのは、世界観を広げるという意味ではいいことだと思いました。

福地

黒田さんが企画書の段階で「未来の人型兵器だから、全領域でつかうはず」と言っていたので、それぞれ得意として戦う領域はあっても、基本的にはモビルスーツ=マルチロールというのをみせたかったんですよね。

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福地仁

福地仁(ふくち・ひとし)

メカデザイナー。OVA『サクラ大戦』シリーズをはじめ、多数の作品にメカデザインとして参加。編集企画プロダクション・伸童舎に在籍中には、バンダイ出版の冊子『模型情報』誌にてF.M.Sを連載。『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』のプラモデル解説書用イラストなど、ガンダム周辺の仕事も長年こなしてきた。

ユニオンフラッグ陸戦型

フラッグの陸戦用の機体。背部のフライトユニットを廃除し、陸戦能力に特化した機体。ディフェンスロッドの大型化により防御能力が向上。使用する火器もリニアキャノンやロケットランチャーを使用し、空戦タイプよりも強化されている。通常は追加装甲を装備した陸戦重装甲型(シェルフラッグ)がポピュラーだが、このイラストの機体は軽装甲タイプとなっている。

ユニオンフラッグ陸戦重装甲型

■設定画 ユニオンフラッグ陸戦重装甲型

アグリッサ

第5次太陽光発動紛争時に使われた大型兵器。モビルスーツと合体させた運用が多いが、ホバー輸送艇として兵員や物資の輸送に単独使用することも多く、今回のイラストではその両面が描かれている。

アグリッサ

■設定画 アグリッサ

ティエレン対空型

対空戦に特化したティエレンのバリエーション機。通称「ツー ウェイ(はりねずみ)」。基地や軌道エレベーターの防衛などに使用された。頭部の4連装155ミリ50口径対空速射砲に加え、4連装対空ミサイルランチャーや、60mm6連液冷バルカン砲など、過激なほどの対空装備を持つ。(初出:月刊ホビージャパン『機動戦士ガンダム00V』)

ティエレン対空型

■設定画 ティエレン対空型

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