イラスト/西井正典

チームとしての機能が作品に好影響を与える

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西井

どの作品もそうですけど、最初の1本、2本は作品に慣れがないから難しいんですよね。実際のところ、作品の世界観を含めて、表現の仕方がのみ込めて、実際に画面に反映され始めたのは、3本目であるファーストシーズンの第13話からでしょうか。

水島

たしかにファーストシーズンの第13話あたりから、僕もいろんな意味で吹っ切れてきたころですね。ちょうど第12話、第13話で、助監督に角田(一樹)くん、長崎(健司)くんが合流してくれて、意思疎通の早いスタッフが中心に来てくれたことで、その後のブレがなくなっていった。たしか第13話は長崎くんと初めて組んでもらった回ですよね。すごく彼のことを買ってくれて、もうずっと同じチームでやってもらおうってことになったんですよ(笑)。

西井

長崎さんのコンテは、芝居の意図しているところがわかりやすいので、よく伝わってくるんですよね。

水島

キャラクター化されているというか、なぜこういう動きがほしいのかが明確なんですよね。

西井

あとは、ファーストシーズンでいえば、第23話が思い出深いですね。ファーストシーズン最後の担当話数でしたし、メカの物量が群を抜いて多かった。たぶん、担当話数でどれが一番大変か? っていわれたら、絶対23話です(笑)。

水島

あのエピソードは、作っている最中でもクオリティの高さが感じられたので、第24話、第25話は相当なプレッシャーだったんですよね。

西井

ロックオン(ニール)の最後の登場回ですから、お話がよかったことも含めてそう感じますよね。

水島

シナリオもこだわって、セリフも相当吟味しましたからね。そういう意味ではチームワークの勝利じゃないですかね。みんながいい仕事をしたという。『00』はそういうことが多かったんですよ。西井さんをはじめ、大貫さんやベテランのスタンスが若いスタッフにとても大きな影響を与えている。スタッフの士気が上がったのは間違いないですね。

『00』という新しいガンダム世界に順応していくこと

水島

西井さんは以前にも『ガンダム』に参加されていますよね。やはり他の作品と違うものを感じられますか?

西井

いろんな意味で注目される作品ですよね。それだけに覚悟は必要でした。確実に見てもらえる作品ではあるんですが、いいことだけじゃなく、悪いことも反応がダイレクトに返ってくるんで、がんばらないとまずいなって思いました。特にガンダムはいろいろな作品があって、作品ごとにカラーが違います。今回の作品はどういう世界で、どんな表現を求められているのか。うまく理解して表現すること、そこが一番気をつかいます。

水島

最近参加されたガンダム作品だと、『機動戦士ガンダムSEED』になりますか?

西井

『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』ですね。『00』に関しては、まず『SEED』シリーズとは何が違うのか。そこをつかむのが大変でしたね。

水島

デザイン的にも『00』メカはまたちょっと変わっていますからね。

西井

そうですね。たとえばスローネとか、フラッグとか、プロポーションが人型をちょっと逸脱しているバランスのメカもいますからね。それに人型のアクションをさせると、どういうふうに動かせばうまくいくのか。そこは試行錯誤がありました。

水島

コンテを描いていても、スローネはこんな感じかな? って、ついアバウトになってしまうところもありましたね。
演出家は、よほどメカの細かい部分が飲み込めている人じゃない限りは、どうしても自分の根本にあるものがベースになります。多くは人の演技をベースにしたり。それをメカに詳しいアニメーターの方に絵にしていただく際に、その齟齬は当然出てしまいますよね。たとえばティエレンも難敵だったように感じますが。

西井

先ほどお話に出た飛行型とはちょっと違う難しさなんですけど、ティエレンは歩くじゃないですか?あの形を維持したまま、ゆっくりと動く。重量感を見せるのは地味に難しいんです。ただ、存在感は相当なものです。ガンダムの相手役としては、安心できるフォルムですよね。

水島

まぁティエレンは劇場版にも、ちょこっと出ているんで(笑)。ファーストシーズンの最初は、明確にモビルスーツの性能差を見せるために、ティエレンは相当ゆっくり見せていましたもんね。イナクトやフラッグよりもエクシアのほうが速かったですから。ジンクスが出て戦局が一変する……っていう状況を作りたかったんで、後半のほうはハイスピードバトルになっている。そういう意味では、後半のほうがやりやすくなっていますよね。他には苦労したところってありますか?

西井

メカの物量が圧倒的に多いことでしょうか(笑)。制作スケジュールに合わせて、その物量をどうこなすか。それが一番難題だったと思います。

水島

本当にありがとうございました。『00』の場合、プラモデルとの密な連動を実践するために、メカは毎回きっちり出すというコンセプトだったんですが、全体的に暴走気味でした……(笑)。ただ模型は相当評判もよかったみたいで、作画でしっかりといい部分を見せられていた効果が出ているなと感じますね。

西井

そういっていただけるとありがたいです。

水島

ガンダムはブランドですからね。まず商品との連動をしっかりとやるべきだろうというのは、最初からありました。そもそもガンダム以外のメカ作品は玩具メーカーがスポンサーにつかない場合が多いんですよね。そこをもっと獲得するためには、フラッグシップのガンダムがきっちりとやろうと僕からもアピールしたぐらい。バンダイのホビー事業部のスタッフにも早めに参加してもらって、本編でとれるポーズをプラモデルで全部再現する方向で進めていましたからね。そこへメカに愛着を持っているアニメーター陣ががんばってくれたおかげで、ファンも盛り上がって良い結果が出て、劇場版にも辿りつけた。西井さんは、その一端を確実担っている方なんです。

水島

次回は西井さんと共に作品をけん引してくれたアニメーター、中谷誠一さんですね。

西井

本当は先に出ていただきたかった(笑)。やはり中谷さんはメインで携われている方ですから、中谷さんが手がけた話数には刺激されます。どうしても自分の味が出てしまうのは仕方ないんですが、メインでやっている方の表現に、もっとうまく合わせたいって常々思いますね。

水島

いやいや、完璧だったじゃないですか。中谷さんは最初、『コードギアス』にも携われていたので、かなり大変な状況でした。そういう意味では、だれが作画を引っ張っていってもいいっていうボーダーレスな部分はあったと思いますよ。その状況によって、若手とベテランがうまく化学反応を起こして、みんなががんばってくれた。これは『00』にとってもとても幸せなことだと思いますよ。

文/河合宏之・写真/山下秀郎
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