第1回 設定画から浮かび上がるMS開発のドラマ 河合宏之
既成概念を打ち破った、あるMSの設定画

「次のガンダムはすごいことになるかもしれない……」
 2007年夏、あるアニメ雑誌編集部で見せてもらったのは、秋からスタートする新作、『機動戦士ガンダム00』の膨大な設定画だった。アニメ雑誌の記事作成に関わらせてもらっているライターなら、こうした設定画を見ることはそう珍しいことではない。もちろん新作の設定画という意味ではとても貴重であり、個人的にもメカ好きということで、とても楽しみな瞬間だ。その一方、通常のワークフローとして、冷静に設定画をチェックしてしまう自分もいる。
 だが、パラパラと設定画の束を数枚めくったところで、思わず目が釘付けになったMSがあった。その設定画に描かれていた機体名は、「ユニオンフラッグ」。
 驚かされたのは、設定画に描きこまれた各部のディテールと無数のメモ書き──設定や演出アイディアだった。メモの内容と、その時の自分の気持ちを抜粋するとこうだ。

・足裏のソール部分は、硬質ラバー製である。
(なるほど、滑り止めやショック吸収の意味でもこれはおもしろい)

・目のパーツ全体にセンサー素子がプリントされる。威嚇用の発光パターンもある。
(ガンダムの眼といえばモノアイやツインアイ。そこからこんなにも大胆に脱却するとは……)

・ディフェンスロッド。超硬質カーボン製。着弾の角度を微調整して跳弾を狙う。
(攻撃を防ぐのではなく、弾く。だからこそロッド形状を採用しているのは新しい考え方だなぁ……)

イメージ その中でも、特に感心したのはコクピットの設定だ。フラッグのコクピットは、円筒形のコクピットブロック内にバスタブのようなバケットシートが設けられている。MS時には直立に近いスタンドポジション、変形時には仰向けに近い角度のフライトポジションになるなど、円筒形内でシートユニットの角度を変えることで、変形時の姿勢変化に対応するという設定であった。
 文字で紹介すると「ふうん……」と思われるかもしれない。だがこれは、今まであまり言及されてこなかった変形MSのコクピットに対する、シンプルかつ効果的な回答であった。さらに円筒形のコクピット形状すらも、フラッグ胴体部のデザインに取り込んでいる点は見事と言わざるを得ない。
 他にもリニアライフルの出力切り替えや、ソニックブレイド、プラズマソードの能力の違い、股関節や肘の構造など、フラッグはMSの常識を覆す新しいアイディアの宝庫だったのである。
 もちろん、アニメーションの基本はドラマであり、設定はあくまでエッセンス。それが100%劇中に反映されることは難しくはあるものの、こうした詳細な設定画は本作が西暦という新たな舞台の構築に対して、いかに真剣に向き合っていたかをうかがわせる。
 なにより我々メカ好きにとって、詳細な設定は歓迎すべき要素であった。なにせ詳細な設定画があるおかげで、フラッグのさまざまな活躍シーンを想像できるのだから。

 

あえて不完全さを狙った変形システム

 ここまではフラッグの「新しさ」という点に触れてきたわけだが、逆にその「不完全さ」にも触れていきたいと思う。
 フラッグの飛行形態であるフライトモードを初めて見たとき、なぜこんなにも不完全な変形なんだろう? と疑問を抱いたことがある。たとえば、可変MSの代名詞といえる『機動戦士Zガンダム』の主人公機Zガンダム。この機体はMS形態でも、飛行モードであるウェイブライダー形態のどちらでも、よくまとまった完成したデザインという印象を受ける。このデザインが25年も前に完成しているのだから、変形MSに対する概念がある程度固定されても無理はない。
 それゆえ初めてフラッグのフライトモードを見たとき、不完全な印象を受けたのは仕方のないことかもしれない。その要因は、やはり腕が露出している点にあったと思う。はたして、なぜフラッグは腕を納めていなかったのだろうか?

 2008年夏、ある雑誌のインタビューで、フラッグのメカデザインを手掛けた福地仁氏に、この点についてお聞きしたことがある。その理由を簡潔にまとめると、「ガンダムの圧倒的な技術を際立たせるため、あえてぎこちなさを狙った」ためであった。
 ファーストシーズンにおけるフラッグは、可変機構を採用したユニオンの最新鋭MSである。だが、物語ではフラッグを上回る圧倒的なMSとしてガンダムが描かれる。ソレスタルビーイングの技術力がユニオンを上回っている以上、変形MSの最先端はガンダムキュリオスでなければ不自然だ。
 "ユニオンの最高の技術をもってしても、ガンダムキュリオスのようなシャープな変形は実現できない……"フラッグの「不完全さ」は、ソレスタルビーイングと世界の科学力の差を示すゲージとして機能した。そこまで計算したが故の、露出した腕だったのだ。
イメージ 思えば自分にとっての可変メカの判断基準は、変形時の美しさや、構造の複雑さといった点だったのかもしれない。世界観や主人公メカとの力関係を考慮したうえで、デザインを構築するというフラッグの誕生プロセスを目の当たりにしたとき、自分の中での既成概念が打ち破られたような気がした。

 2010年夏、『劇場版機動戦士ガンダム00』に登場する可変MS、ブレイヴのデザインが公開された。旧ユニオン、AEUの技術陣が中心となって開発したというそのシルエットは、まぎれもなくフラッグの系譜を受け継ぐもの。だが、変形形態であるクルーズモードで、その腕は後方に折りたたまれている。それは、人類の可変MS開発技術が、また一歩進んだことの証明なのかもしれない。
 こうした技術発展の系譜を感じ取れるのは、フラッグ、マスラオ、ブレイヴというユニオン系の技術で開発されたMSだけではない。ティエレンからアヘッドに至る人革連系の技術には、途中でGN-Xという別系統の技術がミクスチャーされているという面白さがある。

  設定画の小さなきっかけから、技術発展のドラマが浮かび上がってくる。そんな楽しみ方ができるのも、本作の懐の深さではないだろうか?

河合宏之かわいひろゆき

フリーライター。月刊ニュータイプ(角川書店)の『機動戦士ガンダム00』記事ページや、YOMBAN『G-ROOMS』を担当。『機動戦士ガンダム00メカニック-1st』『メカニック-2nd』(双葉社)など、様々な00関連ムックにも携わる。

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